2006年06月15日
ストレスへの対処(4)-様々な治療の効用-
物理的な危険のような、単純なストレスに対しては、考えなしに反射的に回避、対処するのが理にかなっています。しかし、複雑なストレスに対して、同じような対処をしてしまうと、問題がこじれることがあります。前項で、「しばし様子をみること」が大切だと書きました。ほんの一瞬でも、間を開け、反射的に行動しないことで、より適切な行動を取ることができ、それが次の流れにつながっていくのです。反射的に行動してしまう原動力は、危機回避です。つまり、不安や恐れを察知した瞬間に対処行動をとるわけです。
石が飛んできた→よけた、これには何の問題もないでしょう。考えていたら怪我をします。しかし、誰かの言葉や態度に不安や恐れ(意識に上らない場合もありますが)を感じた→逃げ出した、怖くて何もいえなくなった、反論した、けんか腰になった、殴りかかったなどという行動に反射的にでてしまったら、人間関係はそれ以上発展しません。もちろん、場合によってはさっさと逃げたり、関わらない方がよい関係もありますが、ここでは本来避けない方がよい関係を前提に話をします。
瞬間の行動の裏には、「事態の認知→情動反応→行動」という段階があり、いきなり行動になるわけではないです。問題は「事態の認識」「情動反応」という部分です。もともとの性質、感受性や、過去の経験、学習によって、あるいは何らかの疾患によって、その認知や反応は、個々人で大きく違ってきます。物事に動じないとか気が小さいとかいっても、たいていは、持って生まれた性質や本人がどうにもできない年齢での経験によって、そういうパターンが形成されるので、何も堂々としていることを自慢したり、気が小さいことを卑下するのはナンセンスです。努力してそうなったわけでもないし、努力が足りなくてそうなったわけでもないのです。気がついたら、たまたまそうだったにすぎません。ですから、性質や性格を巡って優劣をつけるようなやりとりをするのは、神をも恐れぬ暴挙といえます。
話がそれました。本題にはいります。前項で書いたように、薬物療法、心理療法、リラクゼーションなど各治療は何をしているかというと、「事態の認知」「情動反応」という部分にフィルターをかけて、少しは冷静に対処しやすいように手助けしているわけです。抗精神病薬やSSRIなどにより、過敏な感じ方や考え方にブレーキがかかります。まだ抗不安薬は情動反応、特に不安、恐怖反応を緩やかにしてくれます。抗うつ剤や気分調整剤のように気分を安定させることで、事態への反応の仕方が緩やかになります。大雑把にいえば「心に余裕を持たせる」ことに役立ちます。その少しの余裕により、現実把握がより客観的になり、ストレスを回避するよりよい方法を考え、行動しやすくなるわけです。薬はフィルター、ブレーキ的役割なので、それだけでは問題は解決しません。薬により冷静になり、よりよい経験をしやすくなり、自己成長が促進されるということです。たとえれば、浮き輪に捕まっていても泳げるようにはなりませんが、浮き輪に捕まることで水を恐れず、楽しめるようになり、その経験によって、自分の力で泳ぐ力を身につけることができるというのと同じです。
それでは心理療法はどうでしょう。心理療法というと、心の闇をさぐって、原因を探し、心を深い苦しみからすくってやることで問題が解決するというようなイメージがあります。しかし、それは心理療法全体からいえば、極一部の働きでしょう。もっと大切なことは、治療関係、信頼関係なのです。自分の事を深い部分まで話すようなことは日常にはありません。特に話しにくい内容であればなおさらです。心理療法では話すことで信頼が深まり、信頼により、さらに話せるというサイクルを繰り返します。「自分一人ではない、一緒に考えてくれる人がいる」という思いや、「この前、こんなことを話したな、この場合は~という方法もあるのではと先生は言っていたっけ」という考えが、心にワンクッションを形成するわけです。そのワンクッション、ほんの少しの余裕により、新たな体験の可能性が広がるわけです。また、薬物療法とちがって、具体的に何にどう対処するのかという話合いができることも大きなメリットです。
リラクゼーションはどうでしょう。「リラックスして健康になろう」「リラックスは自律神経や免疫に効果があるんだよ」などという話は表層的なものです。もっと大切なことは、リラックスの練習により、心の揺れに対応する力がつくことです。それにより、10秒後の世界に到達しやすくなるわけです。
ストレスに直面し、心が動揺したときに、心の動揺をほんの少しの間、なだめてあげることができたら、そして、ほんの一瞬、事態を冷静に見渡すことができたら、これまでの反射的な行動により作られた世界から、一歩踏み出し、新しい世界を経験できるでしょう。そんなイメージを持ちながら、薬を上手に利用し、リラクゼーション法を身につけてください。

